治験依頼者はCROフリーを促進すべき?

CRO

背景:治験依頼者はCROフリーを促進すべき?

中国企業の公開情報に「CROフリーの体制を構築したことで、コストカット・スピードアップ・施設との関わり・品質の向上が得られる」と記載されていることを発見しました。

参考:中国企業の公開情報は、こちら

私は、CROのCRAを経験した後に、依頼者としてCROマネジメントを経験しております。

加えて、社内モニターのマネジメント(CROへ委託しないProject)も経験しました。

様々な企業の考えがあると思いますが、CROフリーを促進していくべきなのか疑問に思い、CRO委託と社内モニターについて考えを整理しました。

コストについて:各会社の置かれている事情に依存する

ビジネスである以上、コストは大変重要な項目だと思います。

CRO選定時もリーダーの提案内容の是非は勿論重要ですが、コストは選定結果に大きく影響します。

では、そもそもCROフリーにすれば、コストカットできるのでしょうか。

どのCROに委託するか、PJの規模はどの程度か等にもよりますが、CROへ委託すると数億円要することが多々あります。

やはり、短期的に見ると社内モニターを抱える方が、コストカットできるでしょう。

しかし、これは、CROが発展してきた背景にも通じるかと思いますが、CRO委託すれば効率的にCRAを稼働させることができます。

例えば、PJ数が少ないメーカーが、多くの社内モニターを抱えているとPJが走っていない時、社内モニターには仕事がなく、会社にとっても社内モニター本人にとっても非常に勿体無い期間が発生します。

一方、CROへの委託であれば、PJが走るときだけ効率的にCRAを確保することができます。

コスト面においては、稼働できるPJ数(パイプラインの数)、どのCROに委託するか、各会社の置かれている事情に依存するため、一概にCROフリーがコストカットに繋がるとは言えないと思います。

CRAスキルについて:CRO?

では、CRA としてのスキルは、CROのCRAと社内モニターで違いがあるのでしょうか。

CRAとしてのスキルは、様々な要素に分解できると思います。

例えば、GCPに関する知識量・担当疾患に関する知識量・人間間の調整力等です。

これらは本人のキャラクター(知識獲得にどれ程努力できるか・施設の方々とどの程度信頼関係を構築できるか)に依存するところが大きいと私は思います。

ただし、実践経験を積める機会の豊富さ及び様々な依頼者のやり方を知ることができるCROは、CRAとしてのスキルを高めることにおいては有利な環境にあると思います。

実践を多く積める環境にあることは、シンプルにスキルが向上しやすいです。

実際に外資のCRO等では複数PJを抱えることが通常であり、若手のCRAであっても猛者のような方々が存在します。

また、数多くの依頼者のやり方を知っていることは、社内モニターにはない大きな利点だと思います。

GCPはチェックリストのようなものではなく、会社によってどの程度の記録を残すか等、温度差があります。

複数の会社の方法を知ることで、複数の考え方に触れることができ、記録の残し方等、業務を多角的に考えられる土壌が形成されると思います。

また、複数の会社を知ることで、業界のトレンドにも気付きやすい状況にあると思います。

臨床開発は、他業種と比較し変化の少ない分野ですが、だからこそ前例を疑い常に進化する姿勢が重要です。

その点において、依頼者として一つの会社に居続けると、他社との交流に敏感でない限り、考えが凝り固まってしまう傾向はあるかと思います。

依頼者としても積極的に情報収集している方は存在していて、人依存が大きいという考えは前提にあるのですが、一つの会社内に複数の会社のやり方が蓄積されていることは大きな利点かと思います。

よって、CRAとしてのスキルは人依存であるが、CROの方が身につきやすい環境にあると考えます。

CROとの付き合い方

一方、社内モニターのマネジメントをする上で、いくつかの点においては社内モニターの良さを感じました。

担当疾患及び担当製品の知識

ひとつは、社内モニターの方が、担当疾患及び担当製品の情報に詳しくなる環境にあることです。

こちらはCRAスキルがCROで身につきやすい理由と同様ですが、社内モニターであれば担当疾患・担当製品について知る機会が多くあります。

医師と適切にディスカッションするためにも信頼関係を構築するためにも、やはり担当疾患・担当製品についての知識量は有利になります。

こちらはCROに委託する際には、モニタリングリーダーと相談しながら、勉強会を設ける等、依頼者としてもCRAの知識量向上に繋がる施作をとる必要があると思います。

施設状況の把握

また、社内モニターをマネジメントする場合、社内モニターへ直接指示をだし、直接相談を受けるため、リーダーとして施設状況を把握しやすいです。

CROへ委託すると、CRAと直接やり取りする機会は減り、施設との距離は遠くなりがちです。

どの程度、コミュニケーションを密にするのか、オーバーサイトをするのか等にもよりますが、どうしてもブラックボックスは発生してしまいます。

私のマネジメントスキル不足による失敗事例ですが、依頼者として早期から介入したい事柄が施設で発生していたものの、モニタリングリーダーからの共有はなく、検知が遅れたことがありました。

CROを信頼してCROへ委託しているのですが、最終責任は依頼者にありますので、どの程度の品質が保たれているか、どの程度カバーが必要かは依頼者として認識している必要があります。

モニタリングプラスアルファのこと

加えて、モニタリングプラスアルファのことをしようと思うと、CROは契約書に責任・役割が明確化されているため、胸をはって依頼できない場合もあります。

依頼者にいると治験実施中のことだけでなく、CTD作成のことや市販後のこと等、一連の工程を意識する必要が少なからずあります。

その際、柔軟に対応できるのは、社内事情に明るい社内モニターだと思います。

ただ、モニタリングプラスアルファのことは頻繁に生じる事象でもないですし、どの程度CROに期待するか会社の考えにもよりますので、このためにCROフリーとするべきという考えは本質的でないように思います。

まとめ

PJ数・PJ規模等により状況に応じて、CROを活用したら良いと思いますので、完全にCROフリーとすることに私は賛成ではありません。

ただ、委託するということは必ずマネジメントスキルが必要になります。

社内モニターと比較して、物理的な距離が遠い都合、CROマネジメントの難易度は上がると思います。

CROと真摯に向き合い、適切に連携することができなければ、ブラックボックスやコミュニケーションのタイムロスが増えていき、問題が生じていることにすら気づかないという状況になりかねません。

CROとの綿密なコミュニケーション・CROへの明確な方針の提示・優先順位の明確化・適切なオーバーサイト及びフィードバック等、依頼者としてのマネジメントスキルを高めていくことが極めて重要です。

ピータードラッガーの言う「真摯さ」を胸に日々精進していきたいと思いました。

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